文=ERIKO
こんにちは。定住旅行家のERIKOです。
私はさまざまな国で現地の家庭に滞在し、暮らしを体験するという旅をしています。
今までに訪れた国は50カ国以上、滞在した家庭は100以上になります。
本コラムでは、SDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、旅でみつけたサステイナブルな暮らしをお届けします。
第3回はジョージア。国土のあちこちで豊かな水が湧き出るジョージアは、昔ながらの製法を守るワインの産地です。自然の力でつくられるサステイナブルなワインが今、世界の注目を集めています。
【プロフィール】
ERIKO(エリコ)
モデル・定住旅行家。鳥取県米子市生まれ。国内外のさまざまな地域で現地の人びとの家庭に入り、生活をともにし、その暮らしや生き方を伝えている。
訪れる国では積極的に民間外交なども行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。およそ50カ国にて106家族との暮らしを体験。
とっとりふるさと大使。米子市観光大使。
- 目次 -
・東西の十字路 ゆたかな自然と独自の文化
・いたるところに湧き出る 水の楽園
・伝統的な製法を守る サステイナブルワイン
・ジョージアの人たちが大切にしてきた儀式的宴会
東西の十字路 ゆたかな自然と独自の文化
皆さんは食品や日用品など、日々の暮らしに必要なものを買うとき、どのようなポイントを意識するでしょうか。
目的に叶ったもの、デザイン、値段、製造国などさまざまな要素を比較しながら買い求めることが多いのではないでしょうか。
私も買い物をするとき、自分の使用目的などに見合ったものを基準に選んでいました。しかし、2017年に滞在したジョージアという国での経験がきっかけで、自分が消費するものが、どのようにつくられて、どんな人びとが関わっているかということに興味を持つようになりました。
ジョージアは黒海からカスピ海まで東西に走るコーカサス山脈の南側に位置する国で、南にトルコ、北にロシア、西はアゼルバイジャンに接しています。
アジアとヨーロッパの境にあるジョージアは、東西文明の十字路として、古くから独自の文化をはぐくんできました。
日本の北海道よりやや小さいほどの国土に、およそ370万人の人びとが暮らしています。
小国でありながらも、亜熱帯の沼地、半砂漠、高山など多様な気候や地形を有し、ゆたかな自然が人びとの暮らしを支えています。
国内に数えきれないほどある水源
2015年までは「グルジア」という国名で呼ばれていましたが、現在は「ジョージア」という英語の呼称に変わりました。
日本では力士の黒海、栃ノ心がジョージア出身として有名です。
また最近では「シュクメルリ」という鶏肉をニンニクがたっぷり入ったクリームで煮込んだ料理がブームになり、スーパーやコンビニでも見かけるようになりました。
伝統的に香草や香辛料がふんだんに使われているのが、ジョージア料理の特徴です。
たっぷりのスパイスを使ったジョージア料理
私がジョージアを訪れた9月は、まだまだ残暑がキツく、湿気もあり、日中太陽の下で歩き回ると急激に体力が奪われるような気候でした。
首都のトビリシ、山岳地帯のスバネティ地方、東部のカヘティ地方という3ヶ所に拠点を置いて、現地の家庭に滞在し、彼らの暮らしを体験しました。
世界遺産に登録されているネバネティ地方のウシュグリ村
いたるところに水が湧き出る 水の楽園
ジョージアは知られざる長寿国といわれているのですが、その長寿を支えているのが、ヨーグルト、水、ワインです。
ヨーグルトは現地でマッツォーニと呼ばれています。都会に暮らす人びとはスーパーなどで購入しますが、地方では、ほとんどの家庭で手づくりされています。
ジョージアのマッツォーニは、口に入れると酸味がありますが、口の中でほんのりと甘みに変わります。食感は豆腐を食べているかのようなあっさりとした口当たりです。
そして、どんな人の生活にも欠かせないお水。日本も安全で美味しい水が飲める国の一つですが、実はジョージアもそれに負けていません。
国内に2000カ所以上の水源と、700種類以上のミネラルウォーターがあります。中には病気や体の不調に効くメディシンウォーターといわれるものもあり、多くの人がその効能を求めて、くみにきます。
肝臓に効くというメディシンウォーターの水源
ジョージアの天然水には、炭酸を含んだものが多くあります。水道水も安全に飲むことができますが、どの家庭でも炭酸水を購入して常備しています。
スーパーで水を買おうと思ったとき、あまりの種類の多さにどれを買うか迷ってしまったこともありました。
炭酸水の中でも特に人気が高いのは、ナベグラヴィと呼ばれるものです。日本で販売されている炭酸水の約100倍ものミネラルが含まれています。
滞在中は毎日これらの炭酸水を飲んでいた私ですが、心なしかお肌の調子が良くなった気がしました。
伝統的な製法を守る サステイナブルワイン
長寿のもと3つ目は、ワインです。
ジョージアは世界で2番目にキリスト教を国教にした古い歴史を持つ国です。「キリストの血」と呼ばれるワインをつくることは、単なるお酒をつくることでなく、宗教行為そのものでもあります。
ジョージアでは紀元前6000年もの昔からつくられており、ワイン発祥の地として知られています。
ジョージアワインの特徴は、その歴史の古さだけではありません。伝統的な製法は、樽などではなく、およそ8000年前からこの土地で使われてきた、「クヴェヴリ」と呼ばれる石炭を多く含んだ土でできた甕(かめ)の中で醸造されます。
壺のような形をしたクヴェヴリに、踏み潰した葡萄の果汁、果肉、種、皮などを一緒に入れ、マラニと呼ばれる醸造部屋の地中に埋めて発酵させます。
ワインを醸造するクヴェヴリ
ワインの種で作られるスクラブ
電気などなかった時代からつくられているこのワインは、自然の力だけを利用したサステイナブルな製法なのです。
ジョージアワインの一大産地であるカヘティ地方では、マガロという小さな村に暮らすラマラさんという女性の家に滞在をしました。彼女は養蚕家で、シルクで製品をつくって販売しています。彼女の家でも、夕食時にはバラエティ豊かなジョージア料理と共に、毎日ワインが食卓に並びました。
ジョージアでは多くの人が自宅の敷地などに葡萄畑を持ち、昔ながらの製法で自家製のワインをつくって、家族や仲間と楽しみます。畑では農薬や化学合成肥料などはほとんど使われず、健康な土壌で栽培されています。
葡萄の収穫を手伝う
家庭でつくられるのは主に白ワインです。葡萄の果汁だけでなく、皮や種も一緒に発酵させるため、タンニンが豊富で色は黄金色です。ジョージア人にとってワインは買うものでなく、つくるものなのです。
右が樽で、左がクヴェヴリで醸造された白ワイン。伝統製法のワインは美しい黄金色
どの家庭でもワインは自慢の我が子のように、自信を持って振る舞われます。秋の葡萄の収穫時期になると、相手の体調を聞くよりも先に、「葡萄の調子はどうだ?」という会話がされるほどなのだそうです。
ワイン畑には十字架や教会がある
ジョージアの人たちが大切にしてきた儀式的宴会
ジョージアには「スプラ」と呼ばれる儀式的宴会があり、そこではタマダと呼ばれる司会者が中心となって会が進行されます。
スプラは何十人も集まるような大規模なものから、友人たち数人で行われるこじんまりとしたものまで、さまざまです。
タマダの演説を皮切りに、参加者一人一人が、平和や長寿、友愛などを祈る演説を行い、詩が詠まれ、ポリフォニーと呼ばれる歌が合唱され、舞踊が踊られます。
このスプラでもワインは欠かせない存在です。お互いが腕を絡ませながら、カンツィと呼ばれる水牛の角でできた盃で一気に飲み干すのがジョージア流。
またスプラには、いくらお酒を飲んでも酔っ払ってはいけないというルールがあります。これが一般的な飲み会とスプラの大きく異なるところでもあり、賑やかさと厳粛な空気感が漂う独特な世界観を感じさせます。
テーブルに乗り切らないほどの、たくさんのジョージア料理を囲みながら、仲間と語り、同じ時間を共有する。その様子は、彼らの人生の日々の慰めのようでもあり、ジョージア人としてのアイデンティティをより一層深めているような光景でした。
伝統的な宴会「スプラ」
ジョージアの人びとの暮らしの一部であるワインを通して、自分が口にするもの、消費するものがどのようなプロセスでつくられ、どのような人びとが関わっているのかを考えるようになりました。
また環境や人に優しい製法でつくられるものを選び、消費することも、地球環境や持続可能な社会へ大きな貢献になるのではないかと、思いを新たにしました。